相談例11 相続の持分を譲渡したいケース

伯父が亡くなりました。
妻も子供もいなかったため、私を含む甥や姪、伯父の兄弟など8名が相続人となりました。

正直なところ、相続分としてもらえるものはもらいたいが、面倒な遺産分割協議には関わりたくないです。
何かいい方法はないでしょうか?

<回答>

相続分の譲渡などを検討してもいい例かもしれません。
「相続分」という言葉は馴染みが薄いです。
正直、私も上手く説明するのも難しいのですが、頑張って例を挙げて説明してみます。

突然ですが、相続を子供のころのおやつの時間に例えてみます。
相続財産全体が、丸いショートケーキだとします。相続人は兄弟A・B・Cの3名です。相続分は1/3。
これはつまり大きなショートケーキを1/3ずつ取得する権利(=相続分)を漠然と持っている状態です。

しかし遺産分割協議が確定するまでは、ケーキのどの部分を取るか(イチゴの乗っているところか、はたまたチョコレートのプレートが乗っているところか)は決まっていません。

別に必要なければ、もらう必要もありませんので、必ずしも1/3ずつ分けなければならない必要もありません。
全員が合意すれば、AとBでショートケーキを1/2にしてもいいですし、Aが1人で全部貰っても構いません。

自分の持つ1/3の権利を、いつも自分のいじめるB兄さんではなく、優しいA兄さんに全部あげたい、これが相続分の譲渡に近い考え方かも知れません。
私だけでしょうか、こんな考え方をするのは(笑)

この兄弟3人の例で、相続分の譲渡を使うケースを検討してみましょう。
相続する財産は1筆の3000万円程度の土地とします。

最初は土地を売却して、売ったお金を3人で仲良く分ける予定でした。しかし、なにせ3名共同で売るため、なかなか売却が進みません。

Cはとりあえずお金が入ればいいので「じゃあA兄さん、1000万円で私の相続分を買ってください」(これは500万円でも、無償で譲渡してもいいです)というのが相続分の譲渡(売買・贈与)です。つまり自分の相続分について、他の相続人の相続人に権利をあげでしまうというのが相続分の譲渡です。
自分の権利は有償または無償であげますので、あとは残りの人で好きにしてください、というのが相続分の譲渡と考えればいいでしょう。

特定の相続人に相続分をあげたい場合や、遺産分割協議にまつわる面倒やトラブルに巻き込まれたくない場合など、実務上では便利な方法です。これは不動産などの特定の財産についても、相続財産全体について包括的に行うことも可能です。

最初の質問例に戻りましょう。

このように相続人が著しく多い場合、相続人の代表者や、自分に近い他の相続人(兄弟など)に有償で譲渡してしまう、という方法で、相続分を得つつも面倒な相続協議から離脱することも可能です。
こうした点でも使い勝手がよいので、実務上も好まれるのでしょう。

余談ですが民法の条文に、相続分の譲渡を明記している条文はありません。
民法の905条に「譲渡した相続分の取戻しができる」とあることを根拠に、当然に可能としているのが登記実務上の扱いです。
(民法第905条第1項 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。)

また上記の条文上、相続分は相続人でない第三者にも譲り渡すことが可能です。

しかし全く関係のない第三者が遺産分割協議の当事者になりますので、実際に使われるケースは稀だと思います。
(少なくとも私は見たことがありません)。

またこの場合、税務上は贈与にあたると見做される可能性も生じますので、十分な注意が必要です。
(東京高裁・平成17年(行コ)第140号。*法定相続人外への相続分の譲渡については、「相続により財産を取得した個人」に該当しない)

 

「相続分の譲渡」や「相続放棄」は、便利ですが、よく理解して上手く用いないとトラブルの元となることもあります。司法書士などの専門家のアドバイスに基づき進めた方が良いでしょう。類似のケースについても下記にて説明しています。

相談例8 遺産を受け取らないための「相続分の放棄」と「相続放棄」を混同したケース

相談例10 父親の相続財産をすべて母親に相続させたいケース(1人息子の相続放棄はキケン)

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