【家族信託を検討した方がいいケース】

最近、家族信託(民事信託)という言葉をよく耳にするようになりました。

すべてのケースにおいて家族信託(民事信託)が最適解といえるわけではないのですが、認知症対策、特に資産の凍結、資産の承継、という場面では、とても有益な場面もあります。

ここでは実際に相談を寄せられた事例をもとに、家族信託(民事信託)がどのように使われているのか、検討を進めていきたいと思います。

【相談事例】

一郎さんと二郎さんは73歳と69歳の男性の兄弟です。

一郎さん二郎さんは兄弟ともに地元の市役所の公務員として長く働いてきました。ともに仕事に没頭していたこともあり、結婚には縁がなく、2人とも子供はいません。他の兄弟に、姉の和子さんがいましたが、こちらは結婚して既に成人している息子栄治さんと勝さんがいます。栄治さんは46歳、勝さんは39歳です。勝さんは勤め先の都合で海外駐在も多いのですが、栄治さんは近隣の市で働いています。勝さんとは頻繁に会うことはできませんが、親族で唯一の近隣に住む若い男性ということもあり、一郎さんや二郎さんが入院した際も駆けつけてくれ、入院時の連帯保証人なども引き受けてくれていました。

一郎さんと二郎さんは自宅の不動産のほか、自宅裏手の敷地にアパートを所有しています。自宅もアパートも、一郎さん二郎さんの両親(既に他界)が残してくれたもので、これは死亡時に遺産分割を行い、一郎さんと二郎さんが、自宅もアパートも共有で相続しました。すでに結婚していた和子さんは代わりに金銭を相続しました。

一郎さん・二郎さんともに現在は定年退職をして以降は、収入は年金のほか、嘱託や非常勤でのアルバイト収入が合わせて10万程度のみでした。しかし兄の一郎さんは昨年、軽い脳梗塞を発症しまいました。幸い症状は軽く、意思能力に問題はないものの手足に軽いマヒが残りました。二郎さんは一郎さんの世話なども増えた結果、ともにアルバイトの仕事も続けられなくなり、これらの収入は殆どなくなりました。アパートの収入は、満室の場合だと月に40~50万ほどあり、年金の兄弟の貴重な老後の収入源となっています。これを一郎さん二郎さん2名で、各種の税金や管理費用などを差し引いた上で、折半しています。借り入れについても返済が終わっているので、たいへんありがたい収入ではありますが、親の代に建てた建物であるため老朽化も進み、空室になるとなかなか入居者が埋まらなくなってきたのが悩みの種でもあります。

一郎さんも二郎さんも、ともに独身ですので、将来的にどうしても介助や介護になどが必要になった場合、アパートの維持管理ができなくなることが懸念点です。現状、入居者の契約更新だけを任せている地元の不動産会社の対応は、前述の甥の勝さんにほぼ頼りきりです。また自宅で生活できなくなった場合、自宅も含めて売却をして老人ホームの入居費用などに充てたいと考えていますが、兄弟での共有であるため、一方が認知症などになってしまった場合、不動産の売却などのができなくなると聞いたことも不安です。

また売却をしないまでも、2人とも独身で子供がいないため、将来的にこの不動産をどうすればいいのかも検討しなければならず、不安が増すばかりでした。

【家族(民事)信託を活用方法は?】

さて、今回の事例での悩みの種はなんでしょうか。

それぞれの悩みの種を、法律的リスクに落とし込んでいくと下記のように分解できます。

・将来的な収益不動産の財産管理の問題

→所有者高齢化による財産維持・管理者不在のリスク

・不動産を売りたい時に売れない

→認知症発症による資産凍結のリスク 

  *共有不動産であるため上記リスクも倍

・子供がいないため承継先が不透明

→相続発生時の資産承継のリスク

そもそも私たちが普段当たり前のように考えている「所有権」とはどんなものでしょうか。不動産で言えば、所有権を持つ者は、不動産を貸し出したり、さらには売却する権利を持っています。また一方で不動産を自宅として使ったり、家賃収入を得たりする権利も有しているのも言うまでもありません。つまり、所有権には「管理・処分をする権利」と、「利益を享受する権利」の2つの側面があるとも言えます。

昨今、多くの人が耳にすることが多くなった家族(民事)信託とは、単純に言ってしまえば、この2つの「管理・処分をする権利」と「利益を享受する権利」を分解すること、と考ると理解しやすいかもしれません。

今回のケースについては、比較的家族信託が問題の解決に適している事案でもあります。

1将来的な収益不動産の財産管理の問題

→所有者高齢化による財産維持・管理者不在のリスク

これは一郎さん二郎さんともに「管理をする権利」については手放してもいい。むしろ信頼できる家族の誰かに任せたいと思っています。

2不動動産を売りたい時に売れない

→認知症発症による資産凍結のリスク 

 これも1と同様にですが「処分をする権利」を信頼できる誰かに委託したいといえます

 

3子供がいないため承継先が不透明

→相続発生時の資産承継のリスク

 これは相続の話にもなりますが、自分たちが亡くなった後「管理・処分をする権利」と「利益を享受する権利」をどうするのかという問題になります。

この問題を処理するために、家族信託を検討していきたいと思いいます。

このページの執筆者 司法書士 近藤 崇

司法書士法人近藤事務所ウェブサイト:http://www.yokohama-isan.com/
孤独死110番:http://www.yokohama-isan.com/kodokushi

横浜市出身。私立麻布高校、横浜国立大学経営学部卒業。平成26年横浜市で司法書士事務所開設。平成30年に司法書士法人近藤事務所に法人化。

取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加している事から「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。


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