相続登記・相続放棄の放置により複雑化したケース②

(2021年10月8日更新)

相続登記・相続放棄の放置により、複雑となったケース | 横浜の相続丸ごとお任せサービス (yokohama-isan.com)

からの続きとなります。

 

それから5年ほど経ったある日、大輔さんの姉の千恵さんから、私の事務所に電話が入りました。
「大輔さんが室内で亡くなっているのが見つかった」と連絡を受けたとのことです。

管理費や修繕積立金などの未納が続いていたが、大輔さんと連絡が取れなかったため、管理会社が警察の立会のもとに家のなかに立ち入ったところ、亡くなっている大輔さんを発見したとのことでした。
死後だいぶ経過しており、残念ながら、兄の洋介さんと同じような亡くなり方をしてしまったようです。
千恵さんは健在だが、北陸地方に住んでおり、高齢かつ遠方のため横浜に来ることはできません。
5年前の相談時に交わした連絡先を覚えていてくれたため、弊所にご連絡を頂いたようです。


現在、千恵さんの元にはマンションの管理組合や管理会社から100万円弱の請求がきているといいます。

大輔さんの生前から、マンションの修繕積立金・管理費用など滞納気味になっており、諸々100万円弱が未納となっていることのようです。
このため困り果ててて弊所に電話を頂いたようです。
本来、マンションは所有者や居住者が変わる際に、変更届を管理組合に出すのが原則です。
しかし、このマンションも老朽化、居住者の高齢化が進み、管理組合もあまり機能してしていなかったかもしれません。

 

千恵さんについて、できることはなんでしょうか?
今回亡くなった大輔さんについては相続放棄が検討できます。
とりあえず相続放棄をしてしまえば、目先の100万円の滞納金からは逃れられるかもしれません。
しかし、千恵さんは5年前に亡くなった洋介さんの相続時に、死亡の事実や財産の状況を知りながら、相続放棄の申述を選択していません。
通常ならば、千恵さんについて、5年前に亡くなった洋介さんの相続放棄の申述は、認められない可能性が高いでしょう。

この不動産の登記簿上の名義人は未だに、5年前に亡くなった洋介さんと、15年前に亡くなった洋介さんの妻の雪乃さんであるため、洋介さんの相続について、千恵さんの相続放棄の申述期限はとっくに過ぎています。
このため、今回亡くなった大輔さんの相続放棄をして、目先の滞納金は逃れられたとしても、マンション自体の登記の義務や管理責任について、責任は負ったままになります。


一方で、マンションの管理組合としても未納金を回収できないので、問題の解決になりません。
その後、管理組合や管理会社からも連絡を頂き、相談を受けることになりました。

熟慮期間内中に「兄嫁の相続人」を探すしかありません
そこで双方から話を聞いた結果、今回は下記のようにとりあえず進めてみることにした。

 

①千恵さんはまず、大輔さんについての「相続放棄の熟慮期間の延長」を申述する。
②そのあいだ、管理組合の費用立替負担で、亡き洋介さんの妻雪乃さんのきょうだいや甥姪を探す。

 

 

相続放棄の熟慮期間の延長は、相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月内に相続の承認か相続放棄を決めることができない場合、家庭裁判所は申立てることにより、この3ヵ月の「熟慮期間」を伸ばすことができる。延長期間は稀に6ヵ月を認められることもあるが、弊所で申請を出したケースでは、裁判所としての判断は概ね3ヵ月のケースが多いようです。

千恵さんのこの熟慮期間内に、15年前以上前に亡くなった兄嫁の雪乃さんのきょうだいを探さなければならない。もちろん、連絡先がわかったところで、相続の手続きに協力してくれる保証はありません。
しかし、問題の根本解決にはこの方法しかありません。弊所としても最優先の案件として取り組んだ。

結局、雪乃さんの相続人である半血のきょうだいは5人全員が亡くなっていました。その子どもは合計13名にのぼります。
速達などの郵便をやりとしても、合計13名の相続人すべてと連絡を取れたのは、大輔さんが亡くなってからすでに5ヵ月が経過していました。
そして、この13名全員が雪乃さんと会ったことはなく、そもそも亡くなったことも知りませんでした。
そもそも叔母にあたる雪乃さんの存在すら知らない方もいた。

今回は奇跡的に、13名全員が相続の手続きや相続放棄の手続きに協力してくれたため、不動産の名義は下記のように登記をすることができました。

 

洋介・雪乃夫婦の共有

亡洋介単有 (雪乃さん持分の移転)

千恵と亡大輔共有 (法定相続分での登記)

千恵単有 (大輔さんの持分移転)

 

今回、この登記ができたのは、本当に奇跡としかいえません。


この後、千恵さんは不動産を売却し、大輔さんの管理組合への未納金や今回の手続き費用の支払いをしました。


今回の反省点はなんだったのでしょうか。
やはり洋介さんと雪乃さんの夫婦に、遺言がなかった点が問題の端緒であるでしょう

 

類似の案件を日常的に抱えている身としては「子どものいない夫婦で不動産がある場合、遺言書なしは無謀」としかいえません。

このような話をするたびに「自宅マンションしか財産がないのに遺言なんて大げさ」「公証役場なんて金持ちの行くところ」などの反応を受けます。

 

司法書士だろうが弁護士だろうが税理士だろうが、専門家で自筆証書遺言のほうを積極的に勧める者はいないはずです。
しかし、どうしてもお金を掛けたくないのなら、自筆証書遺言でもいいので残しておくべきでした。

今回のケースでは洋介さん・雪乃さんの夫婦の双方が「全財産を妻(夫)に相続させる」の自筆記載と「日付・署名・押印」さえあれば、少なくともここまでの手間は掛からなかった。残された十数人の遺族、および管理組合など大勢の人が、ここまで振り回されることもなかったでしょう。


最近は子どものいない夫婦も増え、マンションなどの購入の際に夫婦のペアローンでの住宅ローンを組む方も多くみられます。
ローンを返している現役世代には、今回の話は遠い遠い未来のことに感じるかもしれません。

しかし、すべての人にいつの日か確実に訪れる「死」という局面に対し、最低限のリスク管理としての遺言の用意は必須です。
繰り返しになりますが、子どものいない夫婦で不動産がある場合、この作業は最低限のリスク管理です。
これらのことを元気なうちに夫婦で話し合ってみることが大切だと、改めて考えさせられる事案でした。

 

*本件は個人情報保護のため、内容は一部改変を加えております。


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