<コラム> デジタル遺産 ~税務署は把握していたアプリの中の相続財産~(後編)
<コラム> デジタル遺産 ~税務署は把握していたアプリの中の相続財産
税理士でなくとも相続に関する仕事をしていると、こうした税務署はからの書類を目にすることや、依頼人から問い合わせを頂くことが多くあります。詳細は税理士の先生にご確認頂きたいのですが、税務署から届く相続税に関する書類には、大きく分けて2種類があるようです。
相続税が「かかるかもしれない」という人には「相続税についてのお知らせ」が、明らかに相続税が課税されると思われる人には「相続税の申告等についてのご案内」のような書面が届くことが多いいようです。
前者は、主にセルフチェックシートのようなものが同封されており、「チェックして相続税が掛かる場合は申告を忘れないでください」というような内容です。実際の現場では、相続税が課税されない人に届くことも多いように思います。例えば不動産だけで基礎控除の7割くらいまでの財産評価があるが、預貯金があまりない人などです。一見すると不動産に加えて、あと少しまとまった現預金や株式があれば、相続税が課税されそうな人に良く届いている印象があります。
一方、後者は一見して文面から、「相続税の申告があると思いますので期限に気を付けてください。申告期限は被相続人の死亡の日から10か月です」というような文面です。私の知る限り、このような文章が届く方は、地主さんや多額の株式を所有しているなど、ほぼ全員が相続税の課税対象ですし、そもそも申告が必要な事を相続人が把握していますし、それを前提に準備しているケースが大半です。
今回Aさんに届いたのは、「後者」のような文面でした。私たちにとっても、こうした文面が届くにも関わらず、基礎控除を超える相続財産を相続人が把握していないのは、初めてのケースでした。
その後、Aさんたちと私たちで、もう一度被相続人の財産の調査を進めました。すると、被相続人の遺品であるスマートフォンの待ち受け画面に、某企業のアプリから「通知」が来ていることが分かりました。スマートフォン自体にパスコードや顔認証によるロックが掛かっていたため、通知の詳細は分かりません。しかし、このアプリは、スマートフォンで各種投資のできることを売り物にする、最近TVCMでの流行りの会社のものです。いわゆる証券口座に準じるものですが、スマートフォンのアプリで全てが完結するため、大手ネット証券会社以上に存在を把握することが困難です。
取り急ぎ私たちの方でAさんの代わりに、上記会社に残高証明書等の開示を求めました。私たちも相続を中心にかなりの案件を受任していますが、最近CMで流行りだしたこの会社への照会は初めてです。現在、70代・80代の方でスマートフォンアプリでの株式投資は、全体としてはまだ少数だからなのかもしれません。
結果、この会社の口座内に約3000万円弱の金融資産があることが分かりました。前記の既に分かっていた相続税対象の財産3000万円と合わせると6000万円近くになります。Aさんたち子どもも存在を知らなかったこの資産により、基礎控除の4200万円を超えますので、相続税申告が必要になることが明らかです。
今回のケースを通じて、税務当局はかなり正確に個々人の財産を把握しているとの印象を持ちました。相続の現場で仕事をしていて、特に税務当局が正確に把握しているな、と思うのは下記の3つです。
- 不動産
- 保険金
- 株式等の証券会社口座
司法書士の仕事をしていて強く感じますが、①の不動産については固定資産税などの課税も含め、登記制度の半分は正確な課税の確保のため、と言っても過言ではない気がします。②と③においては、マイナンバー制度が極めて有効に活用されているとの印象を受けます。現在では、生命保険の受領には、受取人のマイナンバーは必須でしょうし、ネット証券等の証券会社においてもマイナンバーの提出は必須です。
不動産はについては、そもそも固定資産税が免税点未満の低廉な土地を除き、毎年の固定資産税の課税があり、相続手続きにおいて見落とす可能性は低いと思います。一方、ネット証券、特に今回記載したようなスマートフォンアプリで取引を行うような証券会社口座については、被相続人からせめてその「存在(会社名)」を知らせてもらっていない限り、子などの相続人も発見することは難しいのではないでしょうか。
今回は運よく税務署に教えてもらうような形になりましたが、今後もこうしたデジタル口座やスマートフォンのみで把握できる財産などはは増える方向と思います。口座番号やパスワードを子どもに教えることは、セキュリティ面で難しいし、すべきではないかと思います。しかし、終活やスムーズな相続のために、せめて「自分の財産がどの会社にあるのか」については、何らかの形で家族で共有しておいた方が良いかと思います。
このページの執筆者 司法書士 近藤 崇
司法書士法人近藤事務所ウェブサイト:http://www.yokohama-isan.com/
孤独死110番:http://www.yokohama-isan.com/kodokushi
横浜市出身。私立麻布高校、横浜国立大学経営学部卒業。平成26年横浜市で司法書士事務所開設。平成30年に司法書士法人近藤事務所に法人化。
取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加している事から「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。
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