ミスタープロ野球こと長嶋茂雄さんの相続から学ぶ生前対策の重要性を司法書士が解説

令和7年(2025年)6月3日、衝撃的なニュースが流れました。

ミスタープロ野球として知られる知られる長嶋茂雄さんが89歳で亡くなられたというニュースです。

私たちのようにどうしても、仕事として相続を取り扱っていると、長嶋茂雄さんのご逝去のような国民的なニュースも、どうして一つの相続案件として捉えて、どのような手続きが必要なのか、相続税の額は?また生前の相続対策などあったのかなど、多様な切り口で様々な想像を巡らせてしまいますみてしまうことがあります。

いくら稀代のスーパースターといえども、同じ日本国に生きる一個人の相続ですので、相続に関するルールは変わりません。

ということで、まずは一般で公開されている情報の中で、相続における長嶋茂雄さんのご家族や相続関係を検討していきましょう。

関係 氏名 備考
本人(被相続人) 長嶋茂雄 プロ野球界のレジェンド。
長嶋亜希子(故人) 2007年に逝去
長男 長嶋一茂 タレント・元プロ野球選手。
テレビ等で「相続はいらない」と発言
長女 長島有希 公の露出は少ない
二女 長島三奈 スポーツキャスター
茂雄さんの資産管理をされている?
二男 長島正興 元レーシングドライバー

子どもは合計4人で、配偶者である妻はすでに亡くなっているため、法定相続人は子供4名となります。

長嶋茂雄さんの基礎控除について

まず相続税の基本となる基礎控除についてです。

長嶋茂雄さんの法定相続人の数は4人(子ども4人)です。このため基礎控除額の計算としては

3,000万円 +(600万円 × 4)= 5,400万円

が長嶋茂雄さんの相続のケースでの基礎控除額となります。

この金額までの遺産であれば、相続税はかかりません。

長嶋茂雄さんの相続財産額は報道などでは20億円程といわれています。

このため基礎控除を上回ることが確実ですし、相続税の額もかなりの額となることになるでしょう。

遺産の総額が20億円というのはすごい額ですが、ミスタープロ野球とまで言われていた方にしては、少ないと思う方もいるかもしれませんね。

しかしこうした財産には、田園調布などの自宅不動産なども含まれているでしょうし、長嶋茂雄さんくらいになると肖像権などのパテント収入もあるでしょうし、実際に現金化しずらいものも多いでしょう。

不動産など現金化しずらいものが多い場合、10か月の納税期限内に税金納付のための資金集めが大変になるケースも多いです。

実際、私も長嶋茂雄さんのご自宅と同じ田園調布の一軒家の相続について関わったことがありますが、不動産の評価がどうしても高いため、それに対応する現金となると、けして少額ではないのですが数千万単位では相続税の納付もおぼつかない、というようなケースもありました。

ただこうした相続税の納付の心配も、まずは遺産分割協議が成立することが前提となります。

相続税申告について詳しくはこちら

長嶋一茂さんの相続放棄のご発言について

長男の長嶋一茂さんはタレントとしても有名でテレビで見ない日はありません。

テレビの番組では、長嶋一茂さんは「相続では揉めたくないから俺は放棄してる。兄弟は4人いるが、すでにこどもは3人と変わらない」などと発言されていた記憶があります。

ただこれらの発言は、いずれも長島茂雄さんが生きている生前に発せられたものです。

法律的に見ると、あまり法律上の効力はないものと思われます。

というのも、相続放棄を本当に法律上の意味でする場合、放棄する対象者、つまり被相続人が亡くなられてから、3ヶ月以内に家庭裁判所で申し立てることが相続を放棄する唯一の方法です。

相続放棄について詳しくはこちら

また生前に相続に関連して、唯一考えられる「放棄」という行為では、遺留分の生前放棄があげれます。

ただ遺留分を生前に放棄するためには、やはり同様に家庭裁判所の許可を受ける手続きが必要です。

長嶋茂雄さんの推定相続人であった長嶋一茂さんが、仮に直筆で遺留分を放棄する旨の書面を作ったり、テレビのような公共の電波で発言をしたとしても、法律的に有効な遺留分放棄にはなりません。

さらに言えば、生前に遺留分を放棄できるということは、遺留分の侵害が明らかに発生する可能性が高いということが前提となります。

これは

・自身の法定相続分が害されていて、さらには遺留分(法定相続分の半分)まで侵害されている。

・生前にその蓋然性が高いということは、つまりはそのような内容の遺言書がある。

の2点が存在しているということです。

ただ、これについて、長島茂雄さんの遺言書があるかどうかも分かりませんので、ここでは何か述べることはできません。

もし仮に、長嶋一茂さんが遺留分の放棄をしているとすれば、上記の条件があり、かつ、家庭裁判所での遺留分放棄の申し立てをして認められている、との3つの条件をクリアしていることになります。

参考までに遺留分放棄申立て手続きについては下記の通りです。

・申立人:兄弟姉妹や甥姪を除く遺留分を有する相続人

・申立て時期:相続開始前

・管轄:被相続人の住所地の家庭裁判所
*長嶋家の場合、東京家庭裁判所となります 遺留分放棄の許可 | 裁判所

・手数料等:収入印紙800円と郵便切手

・必要書類:申立人・被相続人の戸籍謄本、財産目録など

となります。

審判の容認基準は、放棄が本人の自由意思にもとづくものであるかどうか、 放棄の理由に合理性と必要性があるかどうか、などが検討されます。

また仮に遺留分の放棄を認められていたとしても、あくまで放棄するのは遺留分だけであるため、相続人の地位は残ります。

法定相続人でなくなるわけではないので、前述した基礎控除額も変わる訳ではありません。

また法定相続人であることにはかわりませんので、本当に長嶋一茂さんが長嶋茂雄さんの相続を放棄したいとするならば、結局は長嶋茂雄さんの死亡後に、相続放棄手続きを改めて家庭裁判所にする放棄する必要があります。

相続放棄の申し立て手続き

相続放棄申立て手続きについては下記の通りです。

・申述人:相続人(※兄弟姉妹・甥姪も含みます)

・申述の時期:相続開始後(死亡を知った日から3ヶ月以内)

・管轄:被相続人の最後の住所地の家庭裁判所

・手数料等:収入印紙800円 + 郵便切手

・必要書類:申述書、相続人の戸籍謄本、被相続人の除籍(戸籍)謄本

・被相続人の住民票の除票または戸籍の附票など

「相続放棄」の申述は家庭裁判所が申述書等を確認し、形式的に不備がなければ原則として、審問や面接などはなく手続きが進み、相続放棄受理通知書が発行されます。

原則として、相続放棄が一度受理されると撤回不可(民法919条)なので相続放棄の判断には注意が必要です。

参考 民法第919条

1.相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。

2.前項の規定は、第1編(総則)及び前編(第5編 親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。

3.前項の取消権は、追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様とする。

4.第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

長嶋茂雄さんの財団法人について

また長嶋茂雄さんは生前に財団法人を立ち上げていたようです。

名称はそのものずばり「長嶋茂雄一般財団法人」。

公開されている有料で取得できる登記情報を確認すると、ご自宅を本店とする財団法人が2年ほど前に設立されています。

設立の目的は「野球を主体に広くスポーツ全般への競技の普及、振興」などとあります。

そもそも社団法人や、財団法人とはなんでしょうか。

現行の一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、一般法人法)では、以下のように定義されています。

・社団法人 人の集まり(社員)を基礎に設立される法人

・財団法人財産の拠出を基礎に設立される法人

社団法人とは2人以上の社員(構成員)が必要です。

非営利でも営利でも問いません。

公証人にが認証した定款と、司法書士が行う設立登記で成立可能です。

「人の集まり」が前提なので、法人の意思は社員総意による「社員総会」で決まります。

個人的には、社団法人は株式会社の「株」が、人的資本である「人」に移ったようで、実際は株式会社に構成が近い印象があります。

そのため一般法人法でも、基本的に会社法の株式会社の考えに沿ったような条文の運用や構成援用になっています。

一方で、財団法人とは一定額以上の財産(設立時拠出財産)を拠出して設立します。

社員(構成員)はおらず、構成単位は社団法人と異なり「人」ではなく「財産」です。

財産が法人の運営をできる訳ではないので、意思決定は主に理事会によって行います。

上記の財団法人も、代表理事は長嶋茂雄さんですが、他に理事2人、評議員3人、そして株式会社の監査役にあたる監事も1人います。

財団法人設立のメリット

長島茂雄さんが、こうした財団法人を設置したメリットとは一体何でしょうか。

どうしても今回、相続の観点で長島茂雄さん亡くなったニュースを見ていますので、どうしても法人設立イコール何らかの相続税を節税するスキームなのではないか、というふうに見てしまいます。

また一部の報道でもそうしたことがなされています。

詳しい解説は省きますが、いわゆる相続税を回避する手段として、社団法人財団法人を用いるスキームというのが平成30年ごろまで用いられていたのも事実です。

大まかな説明をすれば、これらの法人には持分という概念がないため、株式会社の株のように定量的・数量的な評価が困難な法人形態であります。

このため財団法人に遺贈などされた財産については、相続評価の算定のしようが無いため、相続税の対象から外れるとして、意図的に相続税回避のため、これらの社団法人などに財産を移すといった行為が増えたことがありました。

平成30年(2018年)に、いわゆるこれらの「社団法人・財団法人スキーム」による相続税回避策が問題視され、国税庁・財務省が規制を強化され、以下のルールが導入されました。

これらの法人の理事のうち過半数が相続人など特定者に交代した場合、法人の設立者(被相続人)の死亡に伴い、その法人の理事のうち過半数を相続人等が占めるようになった場合には、「法人が保有する資産」のうち、設立者が出資・提供した財産とみなされる部分を、被相続人の「相続財産」とみなして課税対象とするなどの内容です。

既に10年以上前にこうした通達が出されているため、仮に長嶋茂雄さんが個人の財産を財団法人に移転していたとしても、租税回避として否認されることが予想されます。

このため財団法人を作ったからといって、長島茂雄さんが相続税を回避するスキームを目的としていたとは言い切れないと思いますし、それが主な目的ではないと推察されます。

しかし長島茂雄さんは日本でも1,2を争うほどの有名人です。

個人の財産とは言え、その財産は金銭的な価値以上の価値を持つ、数々の功績やレガシー的な遺産などもあると思います。

こうしたものを次の世代に引き継ぐものとしては、法人設立というのは非常に有効な手段だと考えます。

なぜなら人の命は有限なので、どうしても限りがあるからです。

スーパースターの長嶋茂雄さんだって今回のようにいつかは亡くなり、相続という形を迎えます。

一方で法人というのは、本当に解散などをしない限り、法人がなくなることはありません。

当然、代表理事である長島茂雄さんの登記というのは、今後登記簿謄本でも入れ替わるはずでしょう。

しかし、法人としての長島茂雄財団法人は、残り存在続けます。

こうした法人に通して、長嶋茂雄さんの財産を所有することで、都度都度の名義変更の手間は大幅に軽減されます。

基本的には、不動産や株式など1つ1つの名義変更をせずに、会社自体の法人登記を変更するだけで済みますので、手間は大幅に設定されます。

特に、登録免許税などが大きくなりやすい不動産にとっては、こうした方法は有用です。

また社団法人、財団法人だけでなく、株式会社、合同会社などで資産管理法人を持つ方は非常に多くいらっしゃいます。

想像でしかありませんが、おそらくは、この財団法人長島茂雄というのは、その双方の目的をもって作られたものなのではないか、つまり、長島茂雄さんの有形無形の財産の次世代へのスムーズな承継、そしてそれに係るコストの軽減を目的に作られたのではないかと推察します。

もしかすると長嶋茂雄さんのの財団設立も、個人資産の分割を避けつつ、無形資産を含むレガシーを体系的に次世代へ継承する設計とも言え、令和時代の相続・終活実務における象徴的事例といえるのかもしれません。

このように長嶋茂雄さんのご逝去のニュース一つからも、様々な相続の側面をけんとうすることができます。

相続とは単に財産を引き継ぐ行為ではなく、「想い」や「生き方」までを受け継ぐ営みだということです。

どのような手段を選ぶにせよ、大切なのは“何を遺すか”よりも“どう遺すか”。

それが、残された人たちの未来を支える本当の相続だといえるのかもしれません。

当事務所の相続サポートについて

当事務所では横浜市を中心に神奈川県全域から相続や生前対策のご相談をいただいております。

相続について少しでもご不安がある方は0120-926-680よりお気軽にご予約ください。

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