相談例99 相続登記をやり直すと税金が課税されますか?

横浜市に住む父が死亡し、子供3名で3分の1ずつの共有の相続登記を入れました。

その後、事情が変わったため一旦してしまった相続登記が完了した後ですが、もう一度登記をやり直し、不動産は私の単独名義にしようと思っています。

この場合、「贈与税」や「譲渡所得税」が課税される可能性があると聞きました。

私は相続人なのに、贈与税が課税されるのは納得がいきません。

【回答】

遺産分割協議のやり直しによる不動産の権利移転は、新たな財産の移転とみなされて「贈与税」や「譲渡所得税」が課税される可能性があります。

遺産分割協議のやり直しにより財産の移転が生じた場合、
取得した相続人が無償で取得した場合は場合は贈与税の対象
または何らかの対価を支払う場合は、譲渡所得税の対象となる可能性があります。

前回の相談でも触れましたが、遺産分割協議をやり直す場合としても
そもそもの遺産分割協議を「錯誤」として取り消し、既に入れられた所有権移転登記を「抹消登記」をするのか、
はたまた一旦は決まった結論に対して改めて結論をし直す「合意解除」するのか、2通りが考えられると思います。

これは前回の相談事例でも申し上げた通りです。

相談例98 一度登記した相続登記をやり直したい | 横浜の相続丸ごとお任せサービス (yokohama-isan.com)

「合意解除」を前提とした場合、前回の元となった遺産分割協議を前提にした上で、
「改めて当事者の意思で」相続財産を移転させるわけですから、「贈与税」や「譲渡所得税」が発生することも否定できない気がします。

このようなケースは例えば、亡き父甲所有の不動産につき、子A,B,Cが相続人の場合

3分の1 子A
3分の1 子B
3分の1 子C

と相続人3名で各3分の1ずつ相続登記をした不動産を、後日改めて
→子Aの単独名義にする登記が考えられます。

これは登記原因としては「遺産分割」を理由として

B持分全部移転→ 持分3分の1 A
C持分全部移転→ 持分3分の1 A

にそれぞれ「持分全部移転」登記をすることになります。

登記簿謄本の外形的にみても、「贈与税」や「譲渡所得税」が発生してもやむを得ないといえるかもしれません。


一方で錯誤として抹消した場合
既に入れられた

3分の1子A
3分の1子B
3分の1子C

の登記を「所有権抹消」し、亡き父甲の名義の状態に戻す(相続登記を消す)ことになり
あらためて「父甲の死亡日を原因」として、相続登記を入れる事になります。

3分の1子A
3分の1子B
3分の1子C

上記 錯誤により抹消

年月日(父甲の死亡日)相続

所有権移転  相続人 A

 

いったん前回の遺産分割協議を無かったことにして抹消(なかったこと)にして、改めて相続をし直しただけですので、「贈与税」や「譲渡所得税」が発生する余地が無いようにも思えます。

残念ながら登記の原因欄のみでは、この「錯誤」というものが、民法第95条に規定する法律行為の要素の錯誤なのか、までは分かりません。また登記はあくまでも登記官による法律行為の形式上の審査にすぎません。(登記原因証明情報で要件事実の記載はしますが、こちらもあくまで形式的な審査です)

 

このため、所有権移転登記の抹消は、当事者同士があくまで「錯誤」と主張したとしても、課税当局など第三者にまでその主張が通用するか、という点は別物といえるでしょう。

 

参考になるかはわかりませんが、平成17年12月15日の国税不服審判所の裁決においては、身分関係(養子縁組をしていたか否かの錯誤)を理由に、遺産分割協議をやり直し「錯誤」による所有権移転登記を抹消した上で、相続人の1名が新たな相続登記を申請した事案があり、新たに財産を取得したものとして贈与税が課せられた事案があります。


これはあくまで相続人は相続で得たものとして贈与税の課税処分を不服として申し立ていたようですが、これは国税不服審判所の裁決において「否定」されています。

 

理由としては、

「請求人(相続人)の主張する「錯誤」は、遺産分割協議の動機に関するものであり、この動機が遺産分割協議の際に表示されていたとしても、本件遺産分割の内容と異なる内容の遺産分割協議がされたということにもならないから、民法第95条に規定する法律行為の要素の錯誤ということはできず、結局、請求人の思い違いないし勘違いにすぎないというほかはない。」
と指摘されています。

要は、「錯誤はあったのでしょうが、その錯誤が法律行為の目的に照らして重要なものではない」といえるでしょうか。この採決は民法改正前の話ですが、改正後の民法95条の文言そのもので近いです。

国税不服審判所(平17.12.15裁決)

 

また
・詐欺や脅迫にあって遺産分割協議は無効もしくは取消し事由があった場合
・また後日、被相続人の遺言が発見されて所有権移転登記を抹消し、相続登記をやり直す場合
などは明らかに最初の登記が無効事由がありますので「贈与税」や「譲渡所得税」が発生する余地はないのではないでしょうか。

またこれらは、そもそも登記原因が裁判の判決や審判により画定していることも多いので、実体上の錯誤の原因も明らかなことも多いでしょう。

そもそも課税をされなかった事案については、そもそも課税当局との紛争にならないため、裁決や判決などの記録が残らないのでしょう。このため、このような判決や裁決についての記録については、調べた限りでは見つけることはできませんでした。

 

綜合的に勘案しても、上記の採決については、そもそも遺産分割協議のやり直しを数十年の時を経て行っている点も、贈与税を課税するという判断に影響したではないでしょうか。

 

 

 

このページの執筆者 司法書士 近藤 崇

司法書士法人近藤事務所ウェブサイト:http://www.yokohama-isan.com/
孤独死110番:http://www.yokohama-isan.com/kodokushi

横浜市出身。私立麻布高校、横浜国立大学経営学部卒業。平成26年横浜市で司法書士事務所開設。平成30年に司法書士法人近藤事務所に法人化。

取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加している事から「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。

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