青笹寛史さん急逝と会社株式の相続問題 ~令和の虎メンバーの死から考える中小企業経営者の“想定外”リスク~

2025年6月25日、起業家でありYouTube番組『令和の虎』の志願者・出資者としても知られていた実業家・青笹寛史(あおささひろふみ)さんが、急性心不全により29歳の若さで急逝しました。

その知らせは7月上旬、親族により公式に発表され、大きな反響とともに業界内外に衝撃が走りました。

青笹さんは、医師免許を持ちながら、大学在学中から起業されました。その後、動画編集スクール「動画編集CAMP」や法人向けのYouTube支援事業などを展開し、全国に生徒とファンを持つ若きリーダーとして注目されていました。

また、『令和の虎』では投資家としても知られ、その志と行動力に魅了される若者や起業家が後を絶ちませんでした。

個人的な話になってしまいますが、令和の虎をはじめ、こうしたスタートアップ企業の若い起業家さんのお話は、勉強やモチベーションにもなるので、個人的にもyoutubeなどで拝見していた方でした。

とても優秀な方であることには間違いないですので、ご面識もないですが、若い才能が失われることは国としても損失だと思いますし、非常に残念に思います。

しかし、この突然の訃報に際して、表には出にくいものの、重大な課題が浮上しています。

それが「会社株式の相続問題」です。

中小企業経営者の死と、株式の行方

青笹さんが代表を務めていたアズール株式会社をはじめとする複数法人は、創業者である同氏自身が大株主だった可能性が高く、議決権を持つ株式もほぼ青笹さん個人が保有していたとみられます。

中小企業の株式は、上場企業と異なり市場で自由に売買できるものではありません。

したがって、経営者の死後にその株式がどのように相続されるかによって、会社の支配権・意思決定機能に大きな影響が生じるのです。

日本の民法では、被相続人が遺言を残さなかった場合、遺産は法定相続人に対して法定割合で分割されます。

報道やSNS上の情報によると、青笹さんには配偶者とお子さんがいるとされ、そうであれば配偶者と子が法定相続人となります。

法定相続分は、配偶者1/2、残り1/2を子どもが取得する形になります。

ただ故人様のご年齢的にお子様は未成年者(18歳未満の者)と思われますので、遺産分割協議のためには家庭裁判所で特別代理人の選任を経る必要がありそうです。詳細は下記の過去記事をご覧ください。

相談例92 (相続全般)⑥ 相続人の中に未成年者がいる場合 | 横浜の相続丸ごとお任せサービス

問題は、こうした法定相続による株式の分散です。

たとえば配偶者と子どもがそれぞれ株式を所有する場合、それぞれが会社に対して意思決定に影響を持つ立場となります。

しかし、どちらも事業に携わっていなければ、経営判断の停滞や混乱を招く危険があります。

おそらく未成年のお子様がいるとしても会社経営に携わることは難しいのではないかと思われます。

しかしながら、司法書士としての経験上の判断になりますが、上記のような特別代理人を立てる相続手続きというのは、家庭裁判所としては子の保護の名目の元に「法定相続分での分割」に強くこだわる傾向にあるように思います。

つまり、報道が全て正しいとの前提ではありますが、会社株式を未成年の子に半分を分け与える、若しくはそれに等しい額の財産を子に相続させる、という分割を強いられるということです。

前者の場合、株式が分割され、会社経営への関与や、株主権利行使の意思表示が難しい未成年へ会社株式を譲渡せざるを得ません。一方、後者の場合は、相応の金銭または不動産などの対価を子に与えないとならなくなります。

青笹さんのヶースように、若きカリスマで成長企業の株式が相続財産の場合、株式評価が高いと相応の金銭または不動産の額が増すことになり、こちらも現実的には難しい遺産分割協議となります。

さらに相続税の納税負担も見過ごせません。株式の評価額は、会社の資産・収益状況に応じて数千万〜数億円に及ぶ可能性があり、控除を差し引いても高額な相続税が発生することが多いのです。

現金が不足している場合には、相続人が株式の一部を他者に譲渡せざるを得ず、会社の支配権や経営の安定が損なわれるリスクが現実のものとなります。

それだけでなく、配偶者に対しては1億6000万を超える額について、子には今回のケースでは相続税の未成年控除があると思いますが、この控除を超える額については相続税が課税されると思われますので、この納税資金の確保も検討する必要があります。

No.4164 未成年者の税額控除|国税庁

「遺言」がなければ起きる、分散と混乱

青笹さんが生前に遺言書を作成していなかった場合、株式を特定の人物(たとえば配偶者、あるいは事業を継ぐ予定の弟など)に集中させることはできません。

また、仮に配偶者に集中して相続させたとしても、子の「遺留分」(民法1042条)が侵害されていれば、後日、遺留分侵害額請求という争いにつながる可能性もあります。

こうしたケースに備えて、生前にできる対策は複数あります。たとえば以下のような手段が効果的です。

・遺言書による株式の集中相続指定
・経営承継円滑化法による遺留分に関する合意
・事業承継税制の活用
・信託契約や持株会社の設立による分離管理

これらは、いずれも生前に手続きを行っておく必要があり、死後に家族が単独で判断・実行できるものではありません。

だからこそ、経営者の立場にある方は、元気なうちに「自分の死後に何が起こるのか」をリアルに想像し、対策を講じておく必要があるのです。

経営者の死が会社の死とならないために

青笹寛史さんの突然の訃報は、全国の中小企業・ベンチャー経営者にとって「他人事ではない警鐘」だと言えます。

29歳という若さであっても、会社を背負い、雇用を守り、経済活動を担う存在である以上、何かあった際の備えが必要なのです。

彼の死後、兄弟を中心に事業は継続される旨が発表されましたが、もし株式や経営権に関する整理がなされていなければ、会社としての意思決定や金融機関との取引などに大きな支障が出ていたかもしれません。

蛇足ですが、今回の青笹さんのケースでは、そもそも青笹さんに配偶者と子がいるとすると、兄弟は法定相続人ではありません。

このため兄弟が会社として事業を続けたいとしても、会社の大株主である法定相続人へ気を遣いながらの会社経営を続けるのか、また法定相続人から株式を買取るなどの手続きを進めるのか、などの選択を迫られる可能性があります。

これはどちらにしても大きな負担となることが想像されます。

今回の件は、「志半ばで命を失った若き経営者」という悲劇と同時に、「経営と家族を守るための法的・税務的準備の重要性」を浮き彫りにしました。

会社を持つ者として、そして家族の将来を守る者として、遺された人たちが困らないように道を整えておくことも、経営者としての責任の一つです。

司法書士・税理士・弁護士といった専門家とともに、適切な承継スキームを生前に構築しておくことで、会社も家族も守ることができます。

おわりに

青笹寛史さんの急逝は、多くの若い経営者たちに夢と希望を与えた一方で、「命は有限である」という現実と、「突然の死に備えることの重要性」を突きつけました。

事業は続いていくものであり、会社という組織を守り続けるには、“人”がいなくなっても回り続ける仕組みが必要です。

これを機に、多くの経営者が自身の相続と会社の承継に向き合い、早期に対策を講じることを願ってやみません。

当事務所では相続・生前対策の無料相談を実施しています。

経営者からの生前対策なども多数ご相談いただいていますので、少しでもご不安やご不明点があればお気軽にご相談ください。

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