成年後見における意思決定支援ガイドラインとは?

従前の後見業務においては、本人の意思を「尊重」しつつも、やはり最終的な決定権者は成年後見人でした。判断の過程においては、自己決定権の尊重と本人の保護との調整が図られますが、こうした前提においては些か本人の保護が強すぎる可能性が高い場面が多かったのではないかと思います。

 

2020年10月に最高裁判所、厚生労働省および各専門職団体をメンバーとするワーキング・グループにより、後見事務における意思決定支援ガイドラインが策定されましたことで、支援の手法について、ガイドラインによって標準的なものが定められたことも大きな学びだったと思います。これらが明確にされたことで、本人の保護はもちろんのこと、本人の自己決定権がより前面に出たといえます。家庭裁判所における成年後見人などへの監督業務も、今後は本ガイドラインを前提としたものになっていくでしょう。

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

 

 本人の自己決定権に基づいた意思決定支援を実施するためには、後見人や本人を周囲で支える各種の職種の人々によって「支援チーム」を形成し、本人と支援チームが一緒になって意思決定に向けての対話を行うことが必要です。本人にとっての利益を検討した上で、本人が自らの意思で決定をすることができるようにしなければなりません。具体的な意思決定が必要になる場面を想定し、どのような支援チームを形成されていくのか、実際のケースを通じて理解しやすく学ぶことが必要です。

被成年後見人など判断能力が衰えた人たちの支援を行う法定の成年後見制度において、本人の意思を尊重してなすべきことを決定していくのは大前提です。しかしながら、成年後見人は本人の利益を考慮して行動するものの、それが本人の意思に沿ったものになるとは限らないという問題は、従前から成年後見人制度自体に内包されている点だと思います。

そもそも法定後見においては、本人と後見人等の言語を介した意思疎通が難しい場合が多いでしょう。また被成年後見人のこれまでの人生の経験や体験、価値観などは、当然成年後見人の側では全て理解することは不可能であり、成年後見人の側が本人の利益を図った行動だったとしても、本人の意思決定能力を無意識に否定してしまう場面はこれまでも多かったのではないでしょうか。ただ闇雲に本人の意思決定への追認するだけでは、後見人等が本人を支援する意味はなくなりますので、本人のことをより深く理解するように努め、本人の意思決定に沿った支援を行っていく伴走者たる後見人等になっていくためにも、意思決定支援という考え方の実践を通じ、体得していく必要があると感じます。

 

 

 

このページの執筆者 司法書士 近藤 崇

司法書士法人近藤事務所ウェブサイト:http://www.yokohama-isan.com/
孤独死110番:http://www.yokohama-isan.com/kodokushi

横浜市出身。私立麻布高校、横浜国立大学経営学部卒業。平成26年横浜市で司法書士事務所開設。平成30年に司法書士法人近藤事務所に法人化。

取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加している事から「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。


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