【成年後見制度】高齢者の5人に1人が直面する認知症リスク…不動産相続でトラブル回避方法を司法書士が解説が解説
近年に発表された厚生労働省のデータによれば、65歳以上の高齢者のうち、実に約20%の900万世帯以上が「単身世帯」となっており、年々その割合は増加中です。
高齢化の現状と将来像|令和6年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府
司法書士の相続実務の現場でも「親が急に認知症と診断され、相続の準備や不動産の処分ができなくなった」というケースは年々増える一方に感じます。
認知症が進行していまうと、本人の法律的な判断能力が低下することで、不動産の売買契約や、民法で定められた遺言書の作成といった法律行為ができなくなるおそれがあります。
これにより、次のような問題が生じることがあります。
例えば、住んでいる家を売って入居する老人ホームの費用に充当したいが、そもそも家の売買契約ができないなどのトラブルがあります。
また、相続人の中に認知症の方がいるため、遺産分割協議が進まず相続手続きが進まない、これにより売却をしち不動産の相続登記ができないなどトラブルになるおそれがあります。
このような状態になると、いずれも不動産の登記名義を動かせない状態となるため、結果的に不動産を売買して、金銭に変えるなどの行為ができなくなってしまいます。
こうした問題を避けるためには、認知症になる前に、将来の管理や処分の方法を決めておくことが重要です。
こうした問題への対処として、有用な一つの手段が成年後見制度になります。
なぜ成年後見の制度が有効なのか、成年後見の種類に分けてみていきたいと思います。
成年後見は判断能力が不十分な方を保護して、専門職であったり家族であったりする第三者が本人、つまり後見を受ける本人の生活の面倒や医療行為の同意、また財産管理する仕組みです。
成年後見制度には、大きく分けて次の2つの制度があります。
法定後見制度
一つ目が法定の成年後見制度と言われる制度です。
いわゆる一般的な成年後見制度と言えばわかりやすいでしょう。
これはもう既に対象となる方の判断能力が、認知症などで著しく低下、またはほぼ無くなってしまっている場合に、家庭裁判所が成年後見人を選任するものです。
成年後見人は、本人の不動産の売買契約や賃貸借契約、また税金の申告などの手続き、施設の入居、入院の手続きなど本人に代わって行います。
この法定の成年後見制度は、さらに補助、保佐、後見と3つの形に分かれ、能力の低下の具合に応じて、最終的には家庭裁判所がどの制度を用いるかを選びます。
ただ実務上の運用としては申立て時に添付する医師の診断書に応じて判断されているのが現状でしょう。
この一般的な法定の成年後見制度について、メリットやデメリットを以下に記します。
法定後見制度のメリット
・裁判所の監督があるため、不正リスクが低い
・財産管理や契約行為がスムーズに可能になる
法定後見制度のデメリット
・申立てから選任まで数か月かかる
・司法書士や弁護士など専門職が選任されると、報酬が発生する
・一度始まると本人が亡くなるまで原則終了できない
任意後見制度
一方で法定の成年後見制度に比べると認知度、利用頻度は低いですが、任意後見制度という制度もあります。
任意後見制度というのは、本人が元気なうちに公証役場で公正証書で契約をすることで、「将来の後見人」をあらかじめ契約する制度です。
契約行為ですので、本人にもある程度の判断能力が残っていることはもちろんとして、将来の後見人となる方と本人が一緒に公証役場で、公正証書において契約することが必要です。
この公正証書の作成というのが、任意後見制度の利用のハードルの高さともいえるでしょう。
任意後見制度を利用した場合、将来的に本人の判断能力が低下したと思われる時点で、契約に基づき後見が開始することになります。
この任意後見制度のメリット・デメリットも以下に記していきます。
任意後見制度のメリット
・自分の好きな人・信頼できる人を後見人に確実に選べる
・契約内容を自由に設定できる(財産管理の範囲を限定したりすることも可能)
・裁判所に加えて後見監督人のチェックがあるため、不正リスクが低い
任意後見制度のデメリット
・公証役場で、公正証書において予め契約を作成する必要がある。
・後見人以外に、確実に「後見監督人」が選任される
⇒「後見監督人」は、ほぼ弁護士司法書士の専門職のため費用がかかる
・家庭裁判所に上記の「後見監督人」を選任してもらう必要があり、時間が掛かる
成年後見と家族信託の比較、それぞれのメリット・デメリット
近年、「家族信託」(民事信託)をこれらの成年後見制度の代替や補完として利用するケースが増えています。
特に不動産資産については、家族信託の活用も多くのメリットがあります。
高齢になってくると、当然のことながら認知症のリスクは上昇します。
認知症になってしまうと前述のように原則、取引行為ができないため、財産を処分することができなくなってしまうリスクがあります。
本人の認知症発症前に、家族間で信託契約をを結んでおけば、本人が判断能力を失っても信託契約で受託者(管理を任されてる人)が代わりに管理や処分が可能になります。
また不動産資産と家族信託は、とても相性がよい側面があります。
なぜなら不動産には登記制度があり、信託登記を行うことで、その不動産が信託された財産であること、受託者が誰か、第三者に対しても登記簿謄本で明らかになります。
これにより、売買などの手続きの際もスムーズに行えます。
また家族信託では、成年後見制度と異なり不動産の売却などに家庭裁判所の許可が不要ですので、自由な管理・処分を受託者に委任でき、柔軟な対応が可能です。
家族信託は、成年後見制度と異なり家庭裁判所の監督などががないため、柔軟かつ迅速に動けるメリットがあります。
一方で、こうした監督がないことがデメリットとして表面化することもあります。
そもそもの信託契約の設計が不十分だと、受託者がほしいままに本人の財産を扱う危険性もはらんでいるため、家族間でのトラブルに発展するリスクがあります。
司法書士としては、「任意後見制度+家族信託」の併用を提案するケースもあります。
不動産の売却や資産運用は家族信託で柔軟に行い、身上監護(介護や生活支援)は後見制度でカバーする方法です。
任意後見制度と家族信託の併用事例
70代のAさんは、老後の一人暮らしが心配になり、将来的な施設入所も視野に入れていました。
Aさんには同居する長男と離れて暮らす長女がいます。
しかし、認知症になってしまうと、不動産の売却や預金の引き出しも困難になるおそれがあります。
このケースではAさんの長男が受託者となり、Aさんの自宅不動産や収益アパートなどを信託財産とする家族信託を設定しました。
またAさんの長女については信託監督人及び受益者代理人として、信託契約に記載しました。
これにより、自宅や収益アパートなど重要財産の処分については、受託者である長男の一存だけでは無く、受益者代理人である長女の同意も必須とするような信託の設計としたのです。
さらに念を入れるため、本人の判断能力が落ちた段階で効力が発生する「任意後見契約」を、Aさんと長女の間で行うことにしました。
仮にAさんが認知症を発症し、その症状が契約行為が出来ないほどになってしまったとしても、家族信託を設定した財産はそもそもAさんの財産からの分離管理がなされて管理されています。
さらに家族信託を設定した財産以外やAさんの身上監護については、上記の任意後見契約を発動し、任意後見監督人を選任してもらうとで管理が可能です。
このように制度を二重で用いることで、財産の漏れることのない柔軟かつ安全な管理体制が整います。
備えのタイミングは本人が「動けるうちに」
以上を見てきて分かるように、こうした認知症対策のベストタイミングは「親の判断能力が残っているうち」になります。
実際の現場では、認知症が完全に進行しきってからご相談にいらっしゃる方も多いですが、このケースですと既に選択肢が法定後見しかなくなっているような例が多くみられます。
家族ですぐにできる行動としては、
・家族で将来の財産管理や介護の方針について話し合う
・成年後見制度・家族信託・遺言などの概要を知る
・身近な司法書士など専門家に相談してみる
というようなアクションが考えられます。
今の時代、高齢化と認知症リスクの高まりにより、不動産や預貯金の管理ができなくなる事態はけして珍しくありません。
判断能力を失う前に、成年後見制度や家族信託などを活用し、財産管理と生活支援の体制を整えることが重要です。成年後見制度と家族信託は、どちらが優れているなどの比較でなく、状況に応じて使い分けることが必要です。
また制度を単独ではなく組み合わせることで、より安心かつ実務的な管理が可能になります。
準備は「まだ元気なうち」に始めることが何よりの相続対策となるでしょう。
司法書士法人近藤事務所では相続の対策についても無料相談を実施しています。
横浜市を中心に神奈川県全域から多数のご相談をいただいておりますので、少しでもご不安がございましたらお気軽にご相談ください。
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