相続した不動産の借地権の売買のポイント~司法書士が解説する三つの典型的な取引形態と相続時の整理~

借地権というのは、日本の不動産において独特な種類の権利です。

土地を所有せずに利用できるという大きな利便性がある一方、権利関係の複雑さや、また不動産市場での流通性は低いため、実務上様々な課題が出てきます。

とりわけ借地権を売却したい、また、借地権の底地となっている土地を整理したいという相談は、相続や資産相談の場面で非常に多く見られます。

ここでは借地権に関して典型的に見られる3つの形態について説明していきたいと思います。

相続の際、借地権の相談で検討される解決方法は、以下の3つです

1つ目が、地主による借地権付き建物をそのまま買い取ってしまう方法。
2つ目が、借地権者が底地を地主さんから買い取る方法。
3つ目が、借地権と底地を同時に売却することです。

借地権の買い取りについてのポイント

一つ目の地主による借地権の買い取りです。

借地権者が自ら利用していた建物を手放したいとき、買い手としてまず想定されるのが、地主さんご本人です。

地主さんが借地権付き建物を買い取れば、地主さんとしては、建物も土地も両方所有することになり、完全な所有権を持つことになります。

なぜ地主さんに買い手としてまず相談をするかというと、借地権の所有者が借地権自体を譲渡する場合、基本的に地主さんの承諾が必須となります。

このため第三者に譲渡しようとしても、地主さんが承諾をしてくれない限り、現実的にはかなり難しいためです。

一方で当然ながら、地主さんが買い取る場合は、この承諾は問題となりません。

このためまず第一の買主候補として、地主さんを想定せざるを得ないというのが現実的なところです。

また建物を所有している借地人としても、第三者への売却を探す手間や、そのため第三者に売却する際の地主さんとの承諾料の交渉などを避けることができるため、スムーズな売却が可能と言えるでしょう。

地主さんから底地を購入するケースのポイント

2つ目が、建物を持つ借地人が、地主さんから底地である土地を購入するケースです。

これも結果として、1つ目のケースと同じように、土地建物をそれぞれ所有する完全な所有権となるケースですので、実務ではよく見られるケースです。

借地権者が買い取る場合は、相続の局面に限らず、借地人が将来に備えて、借地権のままでは市場流通性に欠けると考えてあらかじめ地主さんと交渉し、買い取るケースも多いのではないでしょうか。

借地権者が底地である土地を購入した場合、借地権は、民法でいう混同により消えると考えられます。借地権が消滅するため、以後は地主さんが借地権を買い取ったときと同様、土地建物を自由に処分することが可能になるでしょう。

こちら方法のメリットとしても、先ほど地主さんが借地権を買い取った場合と同様に、買い取った借地人としては、自由な不動産売買が可能になります。

また将来的に借地権だけを譲渡する場合に備えられる承諾料の問題や、更新料といったそうした要素を解除することができます。

地主さんにとっても、もともと売っていいと思っていたという場合であったら、毎月の地代はなくなってしまいますが、その代わり1回でまとまった売却益を得られるという利点があります。

一般的に地代というのは非常に安いので、毎年年間の固定資産税を払ってしまうと、そう多くは残らないというケースが多いです。

このためこのままにしておくのだったら、借地人に買ってもらおうと考える地主さんも多くいるのも事実です。

借地権と底地所有者の同時売却のポイント

3つ目として、借地権と底地所有者の同時売却というのが考えられます。

すぐ売りたいという場合で、最も不動産価値を高められるのはこの方法かもしれません。

地主さんと借地人が協力して、一斉に建物と土地を「第三者」に売却する方法です。

第三者である買主としては、土地建物を同時に取得することができるため、通常の売買と同じような売買と言えるでしょう。

法律的には共有物分割という形態に近いと言えるかもしれません。

不動産の登記としては、土地は地主から買主へ、建物については借地人から買主に、2件続けて所有権遺伝登記をするだけですので、登記の件数が増えること以外は普通の共有物の売買とあまり変わりません。

売買代金は、借地人の価格と底地の価格をあらかじめ話し合い、または評価して按分するのが通常です。半分半分や4割対6割など按分にするケースが多いかと思います。

この方法のメリットは、不動産を地主さんと借地人が協力することで、市場価格に近い形で売買することが可能だということです。

このため借地人さんも地主さんも、タイミングよく同時に売りたいと考えている場合は、非常に有用な手段となります。

一方で課題となるのは、地主さんと借地人さんの按分の割合です。

売買価格をどのように案分するか、という点で合意が取れなければ、この方法を使うことはできないでしょう。

最後に、相続に伴った借地権の承継の際に見られるケースに見ていきます。実際に私が経験したケースをもとに話していきます。

借地権は財産権ですので、相続財産に含まれますが、今まで亡くなった方は使っていたけれど、相続する方は使いたくないというケースも少なくありません。

借地というのは、長年住んでいるため、建物の老朽化などが重荷となるケースも多いためです。

このため、相続の実務では、このようなケースも考えられます。

例えば、相続人である借地人の相続人は、無償で地主さんに借地権を返す。

本来、建物を取り壊して返すというのが借地契約の原則なんですけれども、相続人は借地権を放棄する代わりに、地主さんに建物解体やその後の引き継ぎをお願いするなどのケースもよく見られます。

もちろん契約通り、借地権を評価し、その差額と解体費用の差額を調整するなどのケースもあるのですが、現実問題として、借地人と地主さんが直接交渉し、その差額まで算出するというのは、なかなか難しいのではないでしょうか。

まとめ

主に相続の局面における借地権の処分の形態は、次の4つに分けられると言えます。

・地主が借地権を買い取るケース
・借地人が地主から底地を買い取るケース
・地主と借地人が協力して同時に第三者に売却するケース
・相続が発生したことに伴い、借地人が借地権を放棄などして整理するケース

いずれも目的としては、土地と建物の権利関係をシンプルにし、借地権を解消するということにあります。ただ、そのアプローチの仕方で方法が異なってきます。

地主さんとしては、これまで通り地代収入を得続けるのか、それともここで売却をして一括で売却益を得るのか、という選択が迫られるでしょう。

借地人の側にとっては、今後も借地として使うのか、それとも今すぐ現金化するのか、はたまたもう使わないので地代の支払いをやめるので借地権を放棄するので極力コストを抑えるのか、という意思決定が求められるでしょう。

特に借地というのは、借地人ご自身が住んでいるケースが非常に多いです。

このため借地人が亡くなることで発生する相続という局面では、相続人としてはこの借地をもう利用しないケースも多くみられます。

このため相続の局面では4つ目の「もう承継しないので放棄する」といったケースも多く見られます。つまり売買だけの方法ではなく、地主との話し合いによる放棄や合意解除という選択肢も出てくるのです。

相続に携わる司法書士としては、こうしたケースごとに最適な方法を検討し、地主・借地人相互が納得できる形を形成していくのが司法書士の役目と言えるでしょう。

さらに、このために必要な登記手続きも司法書士は専門であります。

借地の権利関係はとても複雑です。動作に関する専門的な知識は不可欠であり、早めに専門家に相談することで、かかるコストや無用なトラブルを避けうることができると言えるでしょう。


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