相続の「土地国庫帰属制度」実際のところ使える?メリット・デメリットは?司法書士が解説!

「相続した土地はいらない。けれども売ることもできないし、放置すれば固定資産税の負担が続いてしまう・・・」

そんな悩みに対応する制度として、令和5年4月に施行されたのが「相続土地国庫帰属法」です。

これは、不要となった土地を一定の条件を満たす場合に限り、国庫へ引き取ってもらえる制度です。

新聞やニュースで「相続放棄の次の選択肢」として取り上げられることも多く、実際に当事務所は以前からご相談が増えております。

しかし実務的に見ると、この制度は「いつでも、どこでも、誰でも、どんな土地でも」使えるわけではありません。むしろ厳格な要件が設けられているため、利用できるケースは限定的です。

制度のポイントと10の要件、手続の流れ、メリット・デメリットを整理し、「実際に使えるかどうか」の判断材料を司法書士の視点で解説いたします。

国庫帰属が承認されない10要件

国庫が土地を引き取る場合、将来的な管理コストを最小化するために、法律上の要件が厳格に設けられています。

以下は代表的な「承認されない土地」の基準(10項目)です。

①建物が存在する土地
建物が残っている場合は不可

②工作物や立木、車両、廃棄物等が存する土地
建物以外でも、撤去費用や管理負担がかかるものが残っている場合は不可

③土壌汚染がある土地
⇒有害物質が含まれている可能性がある場合、例えば工場やガソリンスタンド跡地であったことが分かったようなケースでも、国に引き取りを拒否できます。

④境界が明らかでない土地
隣地との境界争いがある土地は認められません。
単なる測量だけでなく、隣地との境界立会を含めた確定測量が事実上必須です。

⑤担保権等が設定されている土地
抵当権など権利関係が複雑な土地は不可

⑥他人による使用収益がある土地
借地人・賃借人が存在する土地や、無断使用がある場合も不可

⑦通路など公共的に利用される土地
他人が通行している里道・水路などは国に引き取らせることができません。

⑧崖地など管理に過大な費用を要する土地
補修に費用がかかる土地は対象外とできます

⑨公道・水路と接しない土地(無道路地)
出入りができない土地は原則不可

⑩その他管理や処分が困難な土地
総合的な判断で将来にわたり国が処分できないと判断される土地は承認されません。

つまり、国庫帰属を利用するためには「整備された更地・問題のない土地」であることが最低条件となります。

そもそもなのですが、利用者にとって国庫帰属をお願いしたい土地の大半は、「整備された更地・問題のない土地」ではないことが大半ではないでしょうか。

使い道の乏しい土地,利用の必要のない土地を自ら管理・処分することが困難となった所有者のために,一定要件の下で土地所有権の国庫移転を認めることになるのは、私有財産の保護を原則とする現代日本では、土地所有者としての負担から解放される方途を示した、これまでにない画期的な制度です。

しかし実際の要件は、かなり厳しく実際に承認される土地は少ないと予想されている点に、若干の制度としての矛盾が垣間見えます。

それではここからは上記の10の要件に当てはまらず相続土地国庫帰属制度が活用できる土地の実際の手続きの流れを解説します。

相続土地国庫帰属制度の手続の流れ

制度を利用するには、法務局での審査手続が必要です。

概要は以下の通りです。

申請準備

亡くなった方名義の場合相続登記を行います。

土地の現況調査・測量・残置物撤去を行います。

法務局へ申請

必要書類とともに申請。印紙代などの実費も発生します。

法務局による実地調査

職員が現地を確認し、要件に適合するかを審査します。

承認・却下の通知

問題がなければ承認されますが、不適合の場合は却下となります。

負担金の納付

承認後、10年分の管理費用に相当する「負担金」を国に支払います。

更地の場合でも20万円ほどはかかります。

負担金は、国が土地を管理するための10年分の標準的な管理費用を見込んで設定された金額です。

これにより、土地の維持管理にかかるコストを事前に支払う仕組みとなっています。

国庫帰属の登記

最終的に国が所有権を取得します。以後は固定資産税等の負担から解放されます。

相続土地国庫帰属制度のメリット・デメリット

それでは相続土地国庫帰属のメリットとデメリットはどんな点でしょうか。

考えられるメリット・デメリットを下記にまとめてみます。

メリット

・不要な土地を処分でき、管理・税金負担から解放される
・相続放棄をせずに済み、他の資産を相続しつつ不要な土地のみ手放せる
・社会的にも「空き家・荒廃地」問題の抑制に役立つ

デメリット

・更地化や測量など、事前費用が高額になり得る
・負担金の納付が必須である
・適用できる土地が限られ、申請しても却下される可能性がある
・農地・山林など広大な土地はほとんど対象外になるケースが多い

これを具体的に制度が「使える土地」「使えない土地」に分類すると下記のようになるでしょう。

使える土地の典型例

・市街地の小規模宅地(建物を解体済み)
・境界が明確で隣地と争いのない土地
・固定資産税評価額が低く、売却先も見つからない狭小地

使えない土地の典型例

・古家付き土地(解体費用が高額で断念するケース)
・山林・農地(管理や処分が困難と判断されやすい)
・崖地や管理されず荒れた土地など(管理・安全確保のコストが理由で却下)

宅建事業者としての相続土地国庫帰属制度の見解

私どもは司法書士として相続のご相談をいただく一方で、宅建事業者も併設しておりますが、宅建業者からみれば前者の使える土地ならば、売却することが可能と思いますし、後者の土地こそ国に引き取って欲しいと思うのではないでしょうか。

そもそも売却することのできる土地なら、わざわざ国に負担金を払ってまで、引き取ってもらおうと思う人は少ないでしょう。

国庫帰属制度における負担金は、原則として20万円ですが、土地の種類や面積によって異なる場合があります。

負担金は、国が土地を管理するための費用をカバーする目的で設定されています。

仮に需要の高い市街化区域や用途地域にある土地は、面積に応じて負担金が変動し、数倍の高い額となることもあります。

まとめ

司法書士の視点からみても相続土地国庫帰属制度は、「夢のような土地処分策」として紹介されがちですが、実際にはハードルが高い制度です。

まずそもそも、相続登記を完了させる必要があり、さらに境界確定測量・建物解体・負担金納付と、複数の費用がかかります。

依頼者の状況を整理すると「そもそも国庫帰属より、売却や寄付の方が合理的」という結論に至ることも少なくありません。

一方で、どうしても市場で売れない土地、親族間で引き取り手がない土地については、最後の手段として活用できる最後の可能性として、希望を託され司法書士に相談に来られる方もいます。

相続財産を国庫に帰属させる制度は、「相続したけれど不要な土地」の処分策として注目されています。

しかし実務に即して言えば、要件の厳格さ・事前の費用負担・対象外となる土地の多さから、「誰にでも簡単に使える制度」ではありません。

相続土地国庫帰属法は、空き家・耕作放棄地問題に対応する一歩ではありますが、制度としてはまだ発展途上です。

今後の運用事例を踏まえつつ、依頼者に最適な相続財産の処理方法を提案していくことが、司法書士としても重要な役割となるでしょう。

当事務所では前述の通り、代表を務める司法書士が宅地事業者を運営しております。

そのため、相続の不動産について困ってしまったというご相談を多数いただいております。

ご相談では司法書士・宅地事業者両方の目線から最適な案をお伝えさせていただきますので、おひとりで悩まずに是非一度ご相談いただければと思います。


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