後見制度(任意後見と法定後見)の前にできることはないの?

最近、任意後見契約と法定後見(成年後見人制度)の区別について良く質問を受けます

任意後見契約と法定後見(成年後見人制度)の違いについては、下記の各ページにて説明しています。

相談例101 法定後見制度と任意後見制度の違いについて教えてください① | 横浜の相続丸ごとお任せサービス (yokohama-isan.com)

相談例102 法定後見制度と任意後見制度の違いについて教えてください② | 横浜の相続丸ごとお任せサービス (yokohama-isan.com)

【任意後見契約のその前は?】

それでは任意後見契約を結ぶまで、身内の財産を管理したりする方法や制度はないのでしょうか?

任意後見の前段階にある契約として、財産管理契約があります。

財産管理契約は任意後見契約同時に設定する事が多く

▼1章として財産管理契約

▼2章として任意後見契約

との構成になります。

2章の任意後見契約が発行すると同時に、1章の財産管理契約は終了します。

3章として死後事務委任契約が付随する事も多いです。

1章の財産管理契約から、2章の任意後見契約に移行するので「移行型」などと呼ばれています。

任意後見契約は、判断能力が低下した場合に備えた契約なので、ご質問のような場合には、任意後見契約によることはできず、通常の「委任契約」を締結することにより、対処することになります。

そして、実際には、このような通常の委任契約を、任意後見契約と組み合わせて締結する場合が多いのです。

任意後見契約は、判断能力が衰えた場合に備えるものなので、判断能力が低下しない限り、その効力を発動することがありません。しかし人間は加齢により、判断能力はしっかりしていても、身体的能力の衰えはどうしようもなく、だんだん自分で自分のことができなくなっていく場合も多いからです。極端な話、寝たきりになってしまえば、いくら自分の預貯金があっても、お金を引き出すこともできません。そのような事態に対処するためには、判断能力が衰えた場合にのみ発動される任意後見契約だけでは不十分であり、通常の委任契約と、任意後見契約の両方を組み合わせて締結しておけば、どちらの事態にも対処できるので安心です。そして、判断能力が衰えた場合には、通常の委任契約に基づく事務処理から、任意後見契約に基づく事務処理へ移行することになります。

2 任意後見契約 | 日本公証人連合会 (koshonin.gr.jp)

任意後見にしろ法定後見(一般的な成年後見人)にしろ、成年後見の制度には様々な意見がありますが、有用な場面として親族の一部がお金を使いこんでいる(疑いのある)場面は、大変に有益と言えます。

例えばこんなケースを例をあげます。

本人は80代の母と、そのAさんと二男。Aさんと二男はそれぞれ結婚して独立しています。80代の母は足も不自由で、夫を亡くして以降は自宅近くの施設に入居しています。

母は脳の萎縮に伴うごく初期の認知症の診断をされており、年相応のもの忘れ程度はありますすが、おそらく通常の生活で接しただけでは全く気にならない程度です。

現状としては日常の事もできるし、銀行口座などの金銭管理も可能ですが、足が不自由なため自ら金融機関に行くことはかなり大変です。

Aさんは母の入居施設の近くに住んでおり、よくお見舞いに行きます。

一方、二男は母の施設を訪れる事は殆どありません。

ところが1年程前から、母の通帳は隣県に住む二男が持っています。Aさんや母が通帳を見せて欲しいと頼んでも

「うるさい。母の財産の事は俺にまかせておけ」

の一点張りで、一向に見せる気配がありません。

二男の配偶者も含めて、やや見栄っ張りでお金使いの荒いタイプのため、Aさんは不安に思っています。二男がこの調子のため2年前に亡くなった父の相続手続きも進んでいません。亡くなった父の口座からも、二男が行った思われる使途不明の引き出しが数百万単位でみられます。

母も亡くなった父も倹約家で、現役時代はそれなりの収入があったため、母の口座にもかなりの額あるかと思いますが、万が一お金が尽きてしまったら目も当てられません。

母も不安な気持ちもありますが、これまで甘やかしたつけもあるのでしょうか、二男に正面を切って通帳とキャッシュカードを引き渡すように強く言う事もできずにいました。

【移行型の財産管理契約・任意後見契約で母の財産を管理】

そこで母とAさんの間で、先般の財産管理契約の附随した「移行型」任意後見契約をする事になりました。

公証役場での契約締結後、Aさんは施設から外出の難しい母親の代わりに、母が口座を持つ各銀行を回ります。Aさんの自分が、母の口座の入出金ができるよう、各口座での代理人としての設定をすること、及び通帳キャッシュカードの再発行をするためです。一部の金融機関では公正証書があった上でも、母親の電話での意思確認を求められることもありましたが、手続きは無事に終わりました。

代理人の手続きが終わった後、Aさんはこれまでの母の口座の取引履歴を請求しました。

すると母の口座からも何度にもわたり合計700万あまりの引き出しを確認することができました。

代わりに金融機関から「二男が店頭で『母のキャッシュカード』が使えなくなったと叫んで騒ぎになっている」との連絡がAさん元に届きました。当然、金融機関としては親子とはいえ他人のキャッシュカードを持って騒いでいる人に対応する訳にはいきません。

その後、Aさんは話し合いの場を設けるため、二男に電話をかけますが、電話には出ません。

すると二男夫婦は、これまで殆ど訪れなかった母の施設を突然訪れ、「俺と一緒に印鑑持って銀行に来い」と母を連れ出そうとします。折しもコロナ禍真っ最中で外出はおろか面会すら禁止している状況です。制止する施設の職員などを押し問答となったため、次回同じようなことがあれば親族といえども警察に通報する旨、施設側は二男に通告しました。その後も二男側からは一切連絡がありません。

とりあえずAさんは母の口座からの身勝手な二男の預金引き出しについて、食い止める事ができました。これまで二男夫婦が引き出した分は、現実問題として親子間など親族間の金銭の問題について、当局に被害届を出すのか、届をを出しても相手にしてくれるかは甚だ疑問ですが、当面これ以上の引き出しを食い止めることができた点で、財産管理契約や任意後見契約の実益があると言えます。

このページの執筆者 司法書士 近藤 崇

司法書士法人近藤事務所ウェブサイト:http://www.yokohama-isan.com/
孤独死110番:http://www.yokohama-isan.com/kodokushi

横浜市出身。私立麻布高校、横浜国立大学経営学部卒業。平成26年横浜市で司法書士事務所開設。平成30年に司法書士法人近藤事務所に法人化。

取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加している事から「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。


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