実際に自分で失踪宣告を申し立ててみたケース
相続には大小さまざまなトラブルがつきものですが、行方不明の相続人の存在があるのは、かなり困難な状況だといえます。相続人が不在では遺産分割協議ができず、手続きが止まってしまうからです。もし行方不明になってから長い年月が経過するなどしている場合は、失踪宣告の申立も選択肢に入ってきます。今回は司法書士法人近藤事務所が失踪宣告の申立てのお手伝いをした事例をもとに、具体的な失踪宣告の手続きについて解説します。
相続が発生するも、法定相続人の1人が行方不明
相続は、だれの身にも起こる可能性がある人生イベントです。本来であれば、遺言や法律に基づいた手続きが粛々と行われ、次世代へと資産が継承されていきますが、トラブルに見舞われ、相続人が対処に困るケースも当然あります。
今回ご紹介するのは、相続人のなかに「行方不明者」が含まれていた場合です。もしそのような事態になったら、相続の手続きはどのように進めればいいのでしょうか。
父の兄妹に行方の分からない叔父が・・・
今回、相談のために司法書士法人近藤事務所にいらっしゃったのは、横浜市に住む50代の女性Aさんです。
数ヵ月前、相談者であるAさんの叔父、Bさんが他界されました。Bさんは、Aさんの父親のすぐ下の弟にあたります。Bさんの奥さんは数年前に他界しており、おふたりの間にはお子さんがいません。この叔父さんの相続人にあたるのは、Aさんのお父さんと、お父さんの末弟であるCさんのふたりです。
しかし大変困ったことに、Aさんのもう1人の叔父であるCさんは、10年以上前から家を出たきり、行方不明です。飲食業に従事していたCさんは、若いときから放浪癖があり、突然理由なく姿を消しては、数ヵ月~数年後にふらりと戻ってくるようなことを繰り返しており、親族もあきれ果てていました。しかし、今回は十数年という大変な長期間にわたって音信不通となり、親族がいくら探しても、連絡を取ることができません。
亡くなったBさんの財産は、横浜市内の広めの一軒家と2000万円程度の預貯金や投資信託、合計するとかなりの金額に上ります。しかし、相続人にCさんという行方不明者がいるために手続きが進展せず、どうしたらいいのか困り果てているとのことでした。
「失踪宣告」は、法律上死亡したものとみなす効果が
10年以上にもわたって連絡が取れないといった今回のような場合は「失踪宣告」の申立をするべきケースに該当すると思われます。そのため、Aさんにはそのようにアドバイスをしました。後日、Aさんのお父さんは失踪宣告の申立を決意されたそうです。
不在者(従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者)につき,
その生死が7年間明らかでないとき(普通失踪),又は戦争,船舶の沈没,
震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後その生死が
1年間明らかでないとき(危難失踪)は,家庭裁判所は,申立てにより,失踪宣告をすることができます。
失踪宣告とは、生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。
具体的な手続きの流れとしては、相続の利害関係者である依頼者のお父さんが司法書士事務所等に依頼し、Bさんの相続で必要になる「相続関係を示す一連の戸籍」のなかから、相続人であるCさんの現在戸籍を取得します。
各戸籍には住所情報が紐づけられている「附票」というものがありますので、こちらを取得し、Cさんが現在住んでいると想定される住所へ連絡を入れます。
返事があれば協力をお願いすることができますが、もし返事が来なかった場合は、それ以上捜索することが困難になってしまいます。このときに初めて「失踪宣告」の申し立てをすることを考慮します。今回のケースでは、10年以上だれも連絡をとっていない、会っていないことを考えると、民法上の失踪宣告に該当する事案であると考えられます。
ちなみに、失踪宣告の申立書の書式と記載例は、下記のようになっています。
この申立てのために集める書類や、裁判所に提出する書類は膨大であり、なおかつ、かなりの時間を要する手続きであることを鑑みますと、司法書士や弁護士に依頼するのが確実であるといえるでしょう。
申立書を管轄の家庭裁判所に提出した後にも、裁判所の書記官や調査官から、不在者の具体的な経緯を審問するため、申立人を家庭裁判所へと審尋する日時が伝えられます。しかし、申し立てたとしても、この家庭裁判所での審尋までには、2カ月以上の期間がかかります。
この2カ月の間には、家庭裁判所の方でも独自に様々な調査を行っているようです。具体的には分かりませんし、ケースによっても様々でしょうが、一例としては、不在者免許証の更新履歴、また犯罪歴や収監歴、雇用保険や社会保険の加入状況など、普通の人が社会生活を送るうえで最低限に必要な手続について、裁判所で調査をしているようです。
失踪宣告の効果確定のためには官報の公告が必要
この家庭裁判所の審問が終わっても、すぐに失踪宣告が認められるわけではありません。
この後に必須の手続となるのが官報公告の掲載です。
家庭裁判所から公告の案内が来ますので、取次所にて支払いをします。費用は概ね5000円程度です。公告期間は普通失踪の場合、3ヶ月以上となります。公告される事項は次のような事柄です。
・不在者について失踪の宣告の申立てがあったこと
・不在者は、一定の期間までにその生存の届出をすべきこと
・前号の届出がないときは、失踪の宣告がされること
・不在者の生死を知る者は、一定の期間までにその届出をすべきこと
確定したら10日以内に届けを市役所に提出
申立て手続きが完了すると、裁判所から失踪を証明する確定証明書を発行することができるようになります。確定証明書は、該当の方の戸籍がある管轄の市区町村役場に10日以内に提出する必要があります。
提出から1週間程で「死亡とみなす」記載がある戸籍を発行することが可能となり、相続を証する書面としてほかと変わりなく使用できます。
このほかにも、家庭裁判所に不在者財産管理人を申し立てる方法もありますが、連絡が取れなくなって明らかに死亡している可能性が高い場合は、失踪宣告が実態に近いと思われます。
今回の事例の場合、ここまでの手続きが完了すれば、Bさんの相続は相談者であるAさんのお父さんが相続人として相続を取りまとめられることになります。
ただし、失踪宣告は人を死亡とみなしてしまう大きな事件になるため、ぜひ一度専門家に相談することをお勧めします。
司法書士法人近藤事務所では、失踪宣告のご依頼についても、親切丁寧にご相談に対応させていただきます。
ご予約専用ダイヤルは0120-926-680になります。
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