相談例100 遺留分の放棄と相続放棄の違いについて教えてください

 

横浜に住む40代の女性です。

私は元夫と離婚をしており、その元夫との間には10歳になる子どもがいます。

その後、私は再婚をしていますが、最近その元夫が死亡したことを聞きました。

元夫については財産は無く、むしろ負債のが多いくらいですので、すぐに司法書士に頼んで相続放棄の手続きを申述しました。しかし夫の保険金があったようでこちらは2千万円ほど受領する事ができました。

一方で元夫の両親からは、「我々の財産についても遺留分の放棄の手続きを取って欲しい」旨の連絡がきました。

元夫の両親と私の子供は離婚後ほとんど交流もなく、こちらとしても元夫の実家の財産などびた一文受け取るつもりはありません。

しかしながら遺留分の放棄と相続放棄の違いがイマイチ分からないです。その辺りを教えてください。

 

【回答】

 

遺留分とは、民法1042条1項により、相続人に認められる最低限の遺産取得分のことです。

そもそも兄弟姉妹や甥姪には遺留分はありませんので、子などの直系卑属、親などの直系尊属居ない方については、遺言書を記載しておけば基本的に遺留分の問題は発生しません。このため、お子様の居ない方に遺言書があった方が良いのは言うまでもありません。

遺留分が問題となるのは、被相続人(遺言者)などの死亡後の話です。

遺留分の侵害があったことを知ってから1年以内に請求しないとなりません。

 

遺留分はあくまで「形成権」とされています。形成権とは、権利を持つ者の一方的な単独の意思表示によって生じさせることができる権利とされます。つまり遺留分を侵害され、その侵害分の請求する権利を有する者の意思表示があって、初めて形成される権利です。遺留分の侵害があったとしても勝手に支払われるものではありません。

 

同じく被相続人(生前の場合は被相続人となるであろう人)の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。相続放棄とよく混同されますが、かなりその性質は違います。

遺留分放棄の許可 | 裁判所 (courts.go.jp)

 

相続放棄は、法定相続人がはじめから相続人ではなかったことになるので、資産も負債も一切相続しません。また生前の相続放棄は認められず、「相続の開始を知ってから3カ月以内」に家庭裁判所申述をしなければなりません。

 

一方で遺留分の放棄は「遺留分」のみを手放すことです。あくまで放棄するのは遺留分だけなので相続権そのものが無くなるわけではありません。よって遺留分を害されていたとしても、遺言などで相続財産の取得分がある場合、それらは取得できますし、相続放棄をしない限り、負債も連帯して負担する義務があります。

 

また遺留分の放棄を死後に行う場合は、単に先に述べた遺留分の請求をしなければ良いだけの話です。ただ生前に行う場合は、相続放棄と同様に家庭裁判所での申述手続きが必要となります。

 被相続人となる人が、まだ生きている間に遺留分を放棄するには、家庭裁判所で「遺留分放棄の許可」を受ける必要があります。遺留分放棄を強要するなどの不当な干渉が行われる可能性があるので、家庭裁判所における厳密な手続きを必要としているのです。

 

今回のケースのように、多額の生前贈与や保険金を受領していた裁判所も遺留分放棄を認められる可能性が高いと言えるでしょう。あくまで被相続人になる方の一方的な強要・強制ではなく、生前に遺留分を放棄させるには相応の代償や理由などが必要になりますので、遺留分の懸念があり手続きを検討されている方はこの点に留意する必要があります。

 

 

このページの執筆者 司法書士 近藤 崇

司法書士法人近藤事務所ウェブサイト:http://www.yokohama-isan.com/
孤独死110番:http://www.yokohama-isan.com/kodokushi

横浜市出身。私立麻布高校、横浜国立大学経営学部卒業。平成26年横浜市で司法書士事務所開設。平成30年に司法書士法人近藤事務所に法人化。

取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加している事から「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。

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